ファウンダリ・ビジネスの台頭

日本の半導体メーカーの凋落の原因と密接に関係している
ファウンダリ・ビジネスとファブレス・メーカについて
今回は取り上げていこうと思います。

このブログを見る人には説明が無用かもしれませんが
一応、ファウンダリについておさらいしておきます。

まず、専業ファウンダリ・メーカーとして有名な会社は
私の知る限り、TSMC、UMC、Chartered、SMIC になると思います。
TSMC と UMC は台湾、Chartered はシンガポール、SMIC は中国の会社です。

ファウンダリ・メーカーは基本的に自分達で半導体製品の開発は行わず
顧客の開発した製品を製造する、製造請負・受託業務となります。

製造請負自体は、日本の半導体メーカーも製造設備を持たない
家電メーカーや通信メーカー向けに ASIC と呼ばれる
特定用途向け LSI の 開発から製造請負を行ってきたのですが
専業ファウンダリ・メーカとの違いは以下になるかと思います。

 ○シャトルサービス(試作サービス)の提供
 ○デザインキットの提供

まず、「シャトル・サービス」についてですが、
これは半導体製品の試作製造に特化したサービスで
例えば、チップの面積が 「5mm x 5mm」1区画として
100チップ製造し提供、それを 500万円〜2000万円で請負う
といったようなサービスです。

上記のチップ面積・数量・値段はあくまでも一例です。

この試作製造サービスというのが、実に素晴らしく画期的で
チップを開発側する側にとっては安く製造出来ますし、
製造を請け負う側も原価を計算して1区画の値段を設定するため
双方にメリットがあります。

なぜ、半導体製品を開発するのにお金がかかるかというと、
フォトリソグラフィー工程で必要になる
「マスク(フォトマスク)」という物が非常に高価なためです。
製造プロセスによって違いますが、1つの製品を製造するのに
およそ20枚以上のマスクが必要になり、
最先端プロセスになると1枚 500万円以上だったりします。

最先端プロセスで製品を開発すると、マスク代だけで
1億円以上かかるとか普通にあります。
ちなみに、安定した古いプロセスのマスクで
精度をあまり必要としない物は 1枚50万程度です。

マスク自体の最大サイズはおよそ、「20mm x 25mm」くらいなので
もし、「5mm x 5mm」を1区画とすれば、20チップ分を
1つのマスクで製造出来ます。

この試作サービスと似たようなシステム自体は
日本の半導体メーカーでもあったりするのですが

 ○試作にかかる費用がファウンダリに比べて圧倒的高い
 ○試作チップの内容説明・様々な部署との調整作業が必要
 ○よほど重要なプロジェクトの試作チップでない限り
  試作チップの優先度が限りなく低い

やはり試作サービスとして提供されているものと
社内での運用システムを比較すると、
社外の方が顧客として対応される分だけ
楽になる部分が多かったりするのが現実でしょう。。。

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このファウンダリが提供する試作サービスの登場によって
ファブレスメーカー(デザインハウス)が多く立ち上がることになります。

この時重要になるのが、ファウンダリが提供する
「デザイン・キット」になります。
「プロセス・デリバリー・キット」や「プロセス・デザイン・キット」
と呼ばれることもありますが、半導体を設計・開発するために
必要な以下の様なデータや情報を顧客に提供します。

 ○デザイン・ルール
 ○プロセス・パラメータ
 ○ライブラリ

 ソフトウェアの世界での SDK(Software Development Kit)と
 同じようなものと考えて頂いて結構です。

上記の物が入手出来れば、ファブ(工場)を持たなくても
半導体製品の開発から製品の流通までの道筋を立てる事が出来、
今まで総合半導体メーカに頼らなくてはいけなかった部分が無くなり、

つまり、「ファウンダリ」+「ファブレスメーカー」という
新たなビジネス・モデルが登場することになり
日本の半導体メーカーが追い込まれていくことになりました。

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ファブレス・メーカとして成功しており、世界的に有名会社としては
CPU での「AMD」、通信チップの「Qualcomm」、GPU での「Nvidia
あたりになると思います、

私としては、世間ではあまり知られてはいませんが、
「TV」というアプリケーションに特化した戦略で成功しつつある、
台湾の「Trident Microsystems」という会社に注目しております。

なぜかと言いますと、日本の総合半導体メーカーのほとんどが
TV用のプロセッサや画像処理チップを開発・製造しており、
本来ならば、そのチップが同じ企業グループで製造している
TV に採用されてもおかしくない状況にも関わらず、
低価格帯や中価格帯の TV に上記の「Trident Microsystems」の
製品の採用がどんどん増えていっているからなのです。

これは、ひとえに価格競争力があり、性能においても十分なため
採用するのが合理的ではありますが、従来、日本のメーカーが得意としていた
「システム・オン・チップ」の土俵でもファブレスメーカに
勝てなくなって来ている証拠であるのですよね。。。。

あるアプリケーションに特化した製品の開発は日本のメーカーも
対応出来るはずですが、価格要求や顧客からの製品仕様の対応に
時間がかかったり、持っていない I/F を急いで開発しようにも
時間とお金がかかりますし、かといって IP を買ってきてもまた、
お金がかかり、チップ量産時にライセンス料徴収などで
価格競争力が落ちてしまいますし・・・・

日本の半導体メーカーは研究開発から製造、営業、販売チャネルと
全て揃っているはずなのですが、それを全く生かしきれていなく、
かえって組織の壁や社内間の不合理な規則などに縛られて
身動きが取れない状況になっているのが低迷の原因でしょう。。。