過剰技術と工程削減の難しさ

以前のエントリーでファウンダリ・ビジネスについて書いたので、
次は主に設計面からみた半導体の開発手法の変化について
書いてみようかと思ったのですが・・・


湯之上さんの第2弾の記事が掲載されたので
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/2379
やはり現役の半導体エンジニアとして書いておくのが良いかなと。

湯之上さん言ってる事は良く理解出来ますし
ほとんど異論はないのですが、現場からの声を上げておきます。

まず、半導体装置の特注や過剰技術については事実だと思います。
(私も過剰品質についてエントリーを書きましたくらいですから)


ただですね、この問題を日本の半導体メーカがクリアするのは
非常に難しいと思うのですよ。

   本当に経営方針・開発方針から見直さないといけない

まず、半導体チップの不良品の流出を防ぎ、
その不良率を改善する、つまり歩留まりを上げるためには
以下の3つのステップがあります。

1.テスト工程で良品・不良品のスペックを決めそれに基づいて選別を行う
2.不良率を下げるために、プロセスや回路設計面からスペックに対して
  マージンを広く取る設計及び生産工程を取る。
3.不良が起こっている根本的な問題を特定し解決を行う

日本の場合は、上記の2のマージンを広く取る方法以外に加えて
3の根本的な解決を行う時に「プロセス微細化技術」を使って
対処する傾向が極めて高いです。


日本メーカーのチップの不良解析技術はかなり高く
チップの断面解析など当たり前ですし、X線解析装置も持っているでしょう。


「狙った加工」をするために工程数を追加する事が
過剰技術につながる事になるのでしょうね。


この「過剰技術」の問題ですが、組織や評価のあり方が深く関わっていると思われます。


まず、組織面から見ますと、開発の人間は基本的にずっと
開発業務を行う組織に属する傾向があります。
もちろん、量産立ち上げ時にはヘルプに行きますが
立ち上がってしまえば、また新たな開発業務に戻ると言ったスタイルが多いのではないかと。
   開発業務が常に脚光を浴びるため人気がありますし、
   エンジニアである以上、新しい技術開発に取組たい人が多く・・・
   量産化業務は開発が行ったものを移植するという事が多く
   安定化技術やコスト削減のための組織や取組が不十分ですし・・・

それと、「新たな技術」つまり「新規の工程」追加により
問題の解決を行うと評価されます。
問題を解決させたのですから評価されるのは当り前ですが、
既存の工程を改善する事よりも「新規の工程」の方が好まれやすいのが
問題という事になるでしょうか。


これは、新規の技術は特許に繋がり易いので理解は出来るのですが
やはりコスト面からの評価や、利益を上げるという事を
軽視している風潮はあると思います。


また、工程数の削減は極めてコスト的に効果があるのですが、これが本当に難しいです。
工程そのものを削ってしまう、また、2つの工程を1つにまとめてしまうといった場合、
それに伴うリスクが当然生じます。

   そもそも、工程が追加されたのには理由があってのことですから
日本のメーカーはリスクが発生する事に対して非常に敏感で、
リスクマネージメントに対して過剰気味に取り組んでいるはずです。
ここらへんは日本人気質が関係しているかもしれませんが、
そもそも不良率をゼロにする事など不可能ではあるのですが、
限りなくゼロにする事が美徳と言いましょうか・・・


また、工程削減そのものに不良率が上がる等のリスクがあって、
たとえ成功したとしても、新規の開発に比べてそれほど評価されないでしょうし、
(これが非常に大きな問題ではあるのですが)
削減が不可能だった場合、「ほれ見ろ、あの工程は必須なんだよ!」って
いう人が多いでしょうから・・・・
(あと、失敗した場合にすぐに犯人探しをし始めるのがね・・・)


結局は経営者が以下の方針を示し、開発面とコスト面のバランスを考えて
競争力をつけていくしかないのですが・・・
経営者だけでなく現場の技術者も意識を変えていくしかないと思いますね。

○コスト削減に繋がる貢献を正当に評価する。
○リスクが生じる作業に対して、過大に扱わないで受け入れる

と、ここまで書いては来ましたが、ほとんどの半導体の技術者は
状況を理解していると思うのですよ。


ただでさえ不況により早期退職で辞めざろう得ない状況に追い込まれるケースも多く
35歳を超えると再就職先を見つけるのも厳しい中
リスクを犯すような事に手を出すのが難しくてですね・・・厳しい・・・