DRAM撤退からの戦略

もうさんざん語られている事ではありますが、
日本の半導体メーカーが DRAM を撤退してから
どのような道を模索し、また衰退していったのか語っていきたいと思います。
(今回は、ファウンダリ・ビジネスが登場する前までの話です。)

まず、振り返りになりますが、
2007年度時点での DRAMの世界市場規模は $31275M = 約2兆6500億円 (1$=85円換算)

http://www.mof.go.jp/singikai/kanzegaita/siryou/kanb200822/kanb200822j.pdf

上記の経済産業省が作成した資料からから抜粋しますと、
エルピーダDRAM市場でのシェアは2007年度で約12%程度となっており、
売上高は $3836M で世界半導体メーカランキングで18位に位置しております。
(ランキングと売り上げについては以下の資料から)

http://www.isuppli.co.jp/pdf/IS06-PR072J29Nov.pdf

仮にエルピーダが20%程度のシェアを取っていたとすると
売り上げが約 $6000M となり、世界ランキング9位か10位を獲得出来たことから
DRAM市場が半導体市場全体でいかに大きいかわかるでしょう。


さて、日本の半導体業界は DRAM撤退から
「集中と選択」という舵取りを迫られることになります。

この「集中と選択」ですが、米テキサス・インスツルメンツ社(以下 TI)が
DRAM事業から撤退後、「DSP」という製品にリソースを集中し、
それが非常にうまくいったので日経も盛んに取り上げ
さんざん、煽っていったのですね・・・・

この DSP はデジタル信号処理に特化した製品で
音声処理、画像処理、モーター制御処理、フィルター処理など
かなり用途が広い製品ではありますが、TI が大幅に成功した理由は
携帯端末メーカであるフィンランドノキア社が採用し、
端末向けと基地局向けの製品が拡大していき
ビジネスとして成功したからだと思います。

     TIにとってノキアは極めて重要な顧客でありました。

その時、TIの成功を見た、日本の半導体大手の会社が出した答えですが
ほぼ全社横並びで「これからの時代は情報家電などに向けたシステム・オン・チップ」
で、勝負していくと・・・・

     このシステム・オン・チップも日経エレクトロニクス誌と
     もう休刊になるマイクロデバイス誌が盛んに煽ったんですよね

どのような物が「システム・オン・チップ」かと言いますと
半導体プロセスの微細化が進み、1つのチップに大規模な回路を
搭載することが可能になったことからなのですが・・・
今までは複数のチップで基板に実装されていたのを
1つのチップで実現するということでして。。。

私も ASIC の仕事に携わった事があるので分かるのですが
ただ単に複数の機能やチップを統合するビジネスはすぐに行き詰まります。

当時の良くあるビジネスの話で、A/Dコンバータ、ロジックシステム、
D/Aコンバータを1つのチップで実現したいと顧客から要望があります。

今まで、それぞれのチップの単価が以下の通りだとします。

A/Dコンバータ \500
ASICチップ \800
D/Aコンバータ \400

で、1つのチップで実現したとして、そのシステムチップの価格は
平気で \1000 だったされたりするのですよ・・・

顧客からすると、ASIC(システム)に機能が追加されたとしても
あくまでも、チップの値段は面積ベースで決まるのだから
ASICチップが\800だとしたら、A/D と D/A が追加されても
\1000 程度の要求はある意味当然です。

 A/D や D/A を搭載するとマスクを増やす必要があったりするので
 最終的には \1200 程度に落ち着くことが多かったかとは思いますが

だいたい、大きな半導体メーカーだとASICチップの設計は
ロジック・システム系の部署で、A/D や D/A の設計は
アナログ(ミックス・シグナル)系の部署でしょう。

で、アナログ系のチップは扱いがかなり面倒だったりします。
そもそも、ビデオ用とモーター用で仕様や駆動方式が違いますし、
電源ノイズや電源の揺れをかなり気にしますし、
ロジック系で高速に動作する信号のノイズの影響も当然受けますし。
そもそも、アナログ系の部署がロジック系の部署に
A/D や D/A を提供する事自体、政治的にも色々あるでしょう。

他のパターンで、アナログ系の回路ではないですが
MPEGエンコーダ/デコーダ 搭載や USB I/F や IEEE1394 I/F を
搭載する場合にも似たような話で色々な機能を1チップにしたとしても
手間がかかる割には全然ビジネス的な利益には結びつかないのですよ。。。

ということをなぜ経営陣は理解できなかったのでしょうか?

そもそも、システム・チップが要求される市場自体小さいですし
情報家電のマーケット自体小さかったはずなのですが・・・

DRAMの技術を持っていたため、ロジック+DRAMという
システム・チップの提案は多数ありましたが、
当然価格は上で述べたように安くなってしまうという・・・

ただですね、注意しないといけないのは
システム・オン・チップそのものがいけない訳ではないのです。
ある程度成功が見込めそうなマーケットを見定め
そこに特化したアプリケーション用の製品を開発していくうちに
結果的にそのチップがシステム・オン・チップならば問題ないのですが
最初からシステム・オン・チップが頭にあり
色々な機能の寄せ集めで作ったものは成功するはずがありません。

あまりにも DRAM に依存しすぎ、その後、自分の会社に適した
戦略も示す事が出来ず、また適切な体制を築けないまま
ずるずる現状維持を続けていってしまったのが
今の日本の半導体メーカーの現状なのかなと。。。


次回は、ファウンダリビジネスの登場と
ある分野に特化して成功し例、
TVに特化したチップで成功した、
台湾のトライデント・マイクロシステムズと
LVDS I/F や A/D などで成功したザインエレクトロニクスについて
書いていこうかなと思います。